J-POP LEGEND FORUM」、J-POPの歴史の中の様々な伝説を改めて紐解いていこうという60分です。日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出していく。
2020年3月の特集は、1969年2月に設立され50周年を迎えた会員制レコードクラブ、URC。田家秀樹が選曲した3枚組ベストアルバム『URC 50th ベスト・青春の遺産』の全曲紹介をしながらURCの歩みを振り返っていく5週間。第5週目となる今回は、DISC3の8曲目からDISC3の17曲目まで解説する。

こんばんは。FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」案内人、田家秀樹です。今流れているのは、斉藤哲夫さん「悩み多き者よ」。先月発売になりましたURC50周年ベスト『URC 50th ベスト・青春の遺産』からお聴きいただいております。今月の前テーマはこの曲です。

DISC3のテーマは「愛と平和の歌」。今週はDISC3の8曲目からご紹介します。

ヤジを飛ばしてるのは岡林(信康)さんでしょうね、ライブバージョンが入っております。これは高田渡さんが、パロディソングのつもりで書いたんです。
茶化しているわけです。でも、世の中というか自衛隊の方はそうは受け取らなくて、自衛隊から感謝状が届いたというエピソードがありますね。実際に、この曲を聴いて自衛隊に入ろうと志願した若者もいたそうです。原曲はピート・シーガー、反戦歌をたくさん書いたアメリカのフォークシンガーのLEGENDです。これが今はどんな風に聴こえるんでしょうね。パロディとして聴こえるんでしょうか? それとも本当に自衛隊のPRソングになるんでしょうか? 微妙な曲となっております。DISC3の8曲目、高田渡で「自衛隊に入ろう」でした。

甚だ簡単ではありますがお許しくださいと締めくくる。正直な歌だなあと思いますね。さっきの「自衛隊に入ろう」からの流れが、どういう風に聴かれるかなあと思いながら選んでおりました。URCのアーティストって団塊世代の人が多いので、両親は軍歌を歌っていた年代なんですね。戦争に行かれた方もたくさんおりました。
まだ戦争の記憶が生々しい時ですよ、日の丸は軍国主義の象徴だと思われていた時代だった。でもそんな簡単に片付けることもできない。そんな風に結論づけていいのかなって思う世代もいたわけですね。我が祖父祖母は感激の涙に暮れ、その子供の我はなんの感慨も湧かずという世代のギャップを率直に淡々と歌ってます。スローガンでもプロパガンダでもない。”反”か”愛”かと単純に二分化できないテーマをこんな風に歌うというのも当時の若者の一つの姿勢だった。RADWIMPS野田洋次郎さんが日の丸を歌ったときに賛否両論、各方面から叩かれたことがありましたけど、彼はこの曲を聴いたのかな、この歌をどんな風に聴くのだろうと思います。

さて、「愛と平和の歌」。この後は愛に向かっていきます。柳田ヒロで「乱れ髪」。

柳田ヒロ「乱れ髪」

国と戦争という大きなテーマの歌の後に、小さな小さなラブソングを並べています。この曲を選んだ理由が明確にありまして、作詞が松本隆さん、作曲が柳田ヒロさん。
1973年のソロアルバム『HIRO』に収録されているんですが、はっぴいえんど、もしくは大滝詠一さんが好きな方はすぐお気づきになるかと思います。大滝詠一ソロアルバム『大滝詠一』の中に同じ詞があるんですよ。そちらは大滝さんの作曲なんですが、柳田ヒロさんの『HIRO』とその2作品は同じ日に発売されたんです。松本さんは2人に同じ詞を渡していた。まだ松本さんが作詞家になる前、はっぴぃえんどに在籍していた時代で、軽い気持ちで渡してしまったんでしょうね。そういう時代の一つのエピソード、その産物がこの曲だと思っていただければ面白いかなと思います。小さな小さな君と僕の歌、もう一曲聴いていただきます。遠藤賢司で「君のことすきだよ」。

「愛と平和の歌」の4曲目にザ・フォーク・クルセダーズの「ぼくのそばにおいでよ」も入れたんですけど、これもそういうタイプの曲ですね。小さな小さなラブソング。URCアルバムは大状況、世界がどう、世の中がどう、国がどうという大きなテーマを歌った曲と、この曲のように身の回りの小状況のことを優しく歌っているのと両方ある。それがメッセージソングとラブソングということに分けられるんですが、両方あるのが歌だと思うんですね。
この頃は優しさの時代っていう風に言われてました。「神田川」に"あなたの優しさが怖かった"という歌詞がありますが、1970年代の優しさっていうのはそばにいる人に対する温かい歌っていうのが象徴していると思いまして、この曲を選んでおります。遠藤賢司さんは、大きなテーマと小さなの優しさの両方を持っていた方で、私はニール・ヤングみたいだなと思っておりました。

次の曲は、そんな遠藤賢司さんの極め付けです。12曲目「カレーライス」。

さっき大状況と小状況という例を出しましたけど、小状況を分かりやすい例で言うと四畳半フォークという言葉でしょうね。世の中のことよりも身の回りのことが気になるという、井上陽水さんの「傘がない」なんかも身の回りのことが大事なんだよという歌ですけどね。でも、四畳半フォークっていう言葉が良くないですよね。湿っぽい生活感といいますか、壁のシミが見えてきそうな暗いイメージがある。四畳半って名付けたのはユーミンだっていう説もありますが、その辺は定かではないですけど。身の回りソングというのはすごく普遍的な小さなラブソングということになるわけで。斉藤和義さんが今年リリースした『202020』というアルバムがあるんですが、斉藤さんも身の回りロックですね。
遠藤賢司さんから斉藤和義さんに繋がってるものがあるなと、この「カレーライス」を聴いていて思いました。遠藤賢司さんはカレー好きで自身でもカレー屋を開き、そして大の猫好きでした。

「愛と平和の歌」というタイトルを聞くと、スローガン的な歌を浮かべられる方もいらっしゃるでしょうが、さりげない日常が「愛と平和の歌」なんだろうと思いますね。この曲は1971年のアルバム『風街ロマン』に収録されていました。この曲も特別なことを歌ってはいないんですよ、遊園地で君を空いろのクレヨンで描いてるというだけの歌ですけど、とても雰囲気があって2人の関係が分かる。"僕"はなぜか風邪をひいているんです、何故かは説明していない。なぜかわからないけどあまり体調が良くない。で、遊園地がそっぽ向いているんですよね、遊園地がそっぽを向いているっていうところで、風邪をひいている僕とモデルになっている君の関係が分かる。あまりいい状態ではない、微妙な2人の状態なんだなっていうのがこれだけで分かる、これが松本隆流ですよね。この”ですます”というのは、松本隆、吉田拓郎、そして遠藤賢司らが開拓した描写のスタイルなんでしょうが、そんな一曲ですね、愛と平和の歌です。はっぴぃえんどを露払いにできる人、そんなにいませんが、次の人はそうやって登場できてしまいます。

続いて14曲目、早川義夫「サルビアの花」。


はっぴぃえんどの前に登場して日本語ロックの最初の衝撃を与えてくれたのがジャックスで、そのリーダー早川義夫さん。1969年の最初のソロアルバム『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』に収録されていた「サルビアの花」。早川さんはURCのディレクターでもあったんですよ。はっぴぃえんどを露払いにするだけの資格があった(笑)。早川さんがこの曲を書いたのは21歳、好きな人が他の人のお嫁さんになる、どうして他の人のお嫁さんになるんだろうと、泣きながら花吹雪の舞う道を転げながら追いかける。さっきまでの温かいラブソングから劇的なラブソングに流れが変わってますね。『卒業』という映画がありましたが、back numberに「そのドレスちょっと待った」っていう曲があるんですよ。シチュエーションが全く一緒なんですけど、シリアス度は「サルビアの花」の方がすっと高いですね。back numberはもっと今っぽい、情けない若者が主人公ですね。さて、続いて15曲目。五つの赤い風船で「おとぎばなしを聞きたいの」。

この「愛と平和の歌」をテーマにしたDISC3の3曲目に五つの赤い風船の曲が入っているんですけど、あれは地の果てまで逃げるという曲ですね。地上の歌でしたが、この曲は海の底ですね。海の底まで逃げたとはいいませんが、そういうところまで行ってしまった。おとぎ話というと、日本昔話みたいな民話を想像される方もいらっしゃると思いますが、現実とは違うファンタジーという意味で使っているんでしょうね。現実の世界の夢が壊されてしまった、何に壊されてしまったのかというと戦争ですね。はっきりとは歌われていませんが、これはとってもファンタジックな反戦歌だなと思って聴いておりました。五つの赤い風船には、「まぼろしの翼とともに」という曲があるんです。御国のために死んだ幻の翼、はっきり特攻隊の歌なんですね。どちらを収録しようかなと思ったんですが、「おとぎばなしを聞きたいの」の方がこのアルバムの流れの中にはふさわしいかなと思って選んでみました。「まぼろしの翼とともに」に関心をもたれた方はぜひそちらもお聴きください。

それでは、「愛と平和の歌」残り2曲。東西の横綱と言ってしまいましょう、街の歌でもありますね。友部正人で「一本道」。

16曲目は友部正人さん「一本道」ですね。ギター1本とハーモニカだけでこんなにドラマチック、説得力のある歌が歌えるんですね。「あぁ、中央線よ 空を飛んであの子の胸に突き刺され」というこの一行だけで歴史に残る歌になったと言っても過言でないかもしれないですね。JR中央線の阿佐ヶ谷駅というのは、関西の方にはイメージしにくいかもしれないですが、中央線って本当に真っ直ぐなんです。高架線がずっと続いていて、そのまま進んでいくと空に突き刺さるんじゃないかと思わせてくれる実感がこの歌には籠っておりますね。"あの頃からどれくらい時間が経ったのか"っていう言葉も、50周年ということで聴くとちょっと違う考えがあったりします。歌の最後は幸せな情景で終わっているわけで、お酒を飲める幸せとは何かという歌でもあります。さて、続いて51曲最後の締め括りはこれしかないという歌をお送りします。

今回の選曲を頼まれたときに、僕でいいのであればということで引き受けたのですが、51曲をこの曲で終わるということだけ決めておりました。この曲に向けてどう流れを作っていけるかというのが自分の中でのテーマでした。1970年発売の2ndアルバム『見るまえに跳べ』に収録されておりました、バックははっぴぃえんどです。岡林信康はなぜフォークの神様と呼ばれているのか、この曲があるからと言い切ってもいいかもしれませんね。松本隆さんが、はっぴいえんどでバックをやっていて、あの歌を歌っている時の岡林さんは神だと思ったことがあると言ってたことがありました。”今ある不幸せに踏み止まってはならない、まだ見ぬ幸せに今飛び立つのだ”という2行の歌詞は、時代に関係なくあらゆる状況を引き受けた究極のテーマですね。更に肯定と否定の両方が入ってる。あなたと生きることとあなたを殺すこと、これが望むことの中に入ってるんですね。なぜこの両方が入っているかということを考えていただければと思います。あなたを殺すことが、私の生きることという時もある。相手を殺さないと私が生きられないのだとしたら、この歌はどんな歌になるだろう。岡林さんがこの歌を書いたとき、23歳でした。「愛と平和の歌」17曲目最後の歌、岡林信康で「私たちの望むものは」でした。

「J-POP LEGEND FORUM」URC50周年『青春の遺産』パート5、日本で最初の大規模なインディーズレーベルURCの50周年を記念して発売された3枚組ベストアルバム『青春の遺産』の全曲紹介。今週はパート3、DISC3「愛と平和の歌」の最後の曲、岡林信康で「私たちの望むものは」までお送りしました。流れているのは、この番組の後テーマ竹内まりやさんの「静かな伝説(レジェンド)」です。

この5週間、皆さんはどういう風に聴かれたんでしょうね、1969年から1973年の半世紀前の曲ですよ。なぜ今URCなのかっていう理由がありまして、一つは配信の時代で音楽に新旧がない。50年前の歌でも今の歌でも同じように聴いてもらえることが一つですね、そしてもう一つは震災のあとに音楽に対するミュージシャンや聴き手の考え方が変わってきたような気がするんですね。自分にとって音楽はどんな意味があるんだろうと考えるようになった。URCの曲はそういう曲がたくさんありますから、今音楽を通して自分がどう生きるか考える、そういう機会になればいいなと思って全曲紹介しました。そして2020年、思いがけずこんな状況になるとは思わなかった。ライブができない時代になってる。そんな中で、改めてこういう歌があったんだと聞いて頂けると、音楽に対する考え方が変わったりするかもしれません。ただ、今のアーティストの中にもこういう曲を作って人はいるわけで、そういう歌をぜひ見つけて、ご自分の歌にしていただけると、毎日が少し違って過ごせるのではないでしょうか。また来週。

URC50周年ベスト「愛と平和の歌」、世の中と身の周りをテーマにする歌たち

『URC 50th ベスト・青春の遺産』を手にした田家秀樹

<INFORMATION>

田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソナリティとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp

「J-POP LEGEND FORUM」
月 21:00-22:00
音楽評論家・田家秀樹が日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出す1時間。
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